三越伊勢丹、「Red Hat Integration」を導入し独自のデータ活用共通基盤を構築

三越伊勢丹ホールディングス、Red Hat Integration でデジタル小売サービスを提供

日本最大規模の小売業グループである三越伊勢丹ホールディングス (以下、三越伊勢丹) が、デジタル化による質の高い顧客体験の提供を目指し、基幹システムのモダナイズに着手した。この基盤の中核的なソリューションとして、データ連携のための包括的なツール「Red Hat Integration」およびビジネスルール管理製品「Red Hat Decision Manager」が導入された。これにより、顧客、購買、物流、在庫などの既存データを容易に取り込める仕組みが整備され、DX サービスの俊敏な開発と迅速な展開が可能になった。

メリット

  • 開発スピードが 4 倍にアップ
  • 保守費を 75% 削減
  • ルールエンジンの活用でビジネスルール管理を単純化および自動化

データリソースの統合で魅力的なデジタルサービスをサポート

三越伊勢丹の歴史は、17 世紀後半の創業にまでさかのぼることができる。 350 年余りの歴史と実績を誇り、売上高の約 8 割を占める百貨店業を中心にクレジット・金融・友の会業、不動産業、その他のセグメントで事業を行っている。

三越伊勢丹では、時代の要請に応える新しい顧客体験を実現するため、デジタル・トランスフォーメーション (DX) の取り組みを開始した。多くの大企業に見られるように、三越伊勢丹の基幹システムも業務別に仕組みが異なる、いわゆるサイロ型のレガシーシステムが動いている。DX サービスの開発・運用には基幹システムにある顧客、購買、物流、在庫などに関するデータの活用が不可欠で、サービスの数が少ないうちは、データを取りに行く、あるいはデータを提供してもらうといった仕組みを個別に作ることで対応できた。しかし近い将来、DX サービスの数を大幅に増やすことが想定されており、こうしたデータの受け渡しを担う中間層の仕組みをサービスごとに作っていると、ビジネス側の要求に追いつけず、サービスの迅速な展開の妨げになる。

三越伊勢丹グループは DX 領域を担う戦略 IT 子会社、株式会社 IM Digital Lab (アイムデジタルラボ) と協力して、クラウドベースの共有インフラストラクチャである三越伊勢丹ビジネスプラットフォーム (MI_BPF) の構築に着手した。

取締役の鈴木雄介氏は、当時抱えていた課題について次のように振り返る。「業務別に分割された基幹システムのデータを活用するには、 このシステムは HTTP 通信が可能、このシステムは DB を見に行く必要がある、など個々のシステムの特性をサービス側が把握して、連携形式を調整する必要がありました。お客様にとって魅力的なサービスを作ることが目的なのに、こうした社内システムとの調整にコストと時間がかかるというのは本末転倒です。サービス側から基幹側のデータや機能を一定のルールのもとで使いやすくする仕組みの基盤化が急務でした」

Red Hat Integration を活用したデータ活用共通基盤の構築

三越伊勢丹では、こうした課題を解決するため、独自のデータ活用共通基盤である「三越伊勢丹ビジネス・プラットフォーム」(以下 MI_BPF) を構築した。顧客データ、価格や在庫などの商品データ、決済や配送などの機能を、顧客が商品を購入する際に生じる一連の行動に沿って横断的に利用可能にするもので、アジャイル開発による内製化を実践するために作られたクラウド上の開発環境で動作する。MI_BPF は、メインの機能であるデータ連携だけでなく、DX サービスから基幹システムの機能そのものを利用することも可能で、将来的にそれらの機能をクラウドネイティブ化して MI_BPF に吸収する「基幹システムのモダナイズ」を視野に拡充が進められている。この MI_BPF の仕組みを実現するために採用されたのが、データ連携のためのツール群を包括的に提供する「Red Hat Integration」の「Red Hat Fuse」と「Red Hat 3scale API Management」だ。「Red Hat Fuse」は、DX サービスに必要とされる形式で基幹システムのデータを調整・加工する仕組みに利用されている。API 管理もこのデータ連携基盤にとって重要な役割となっている。DX サービスが基幹システムのデータを利用する際には、API 連携することも少なくないからだ。万が一の障害時にはサービスに影響を及ぼしている API をすばやく特定する必要もある。API 管理には「Red Hat 3scale API Management」を活用する。

鈴木氏は、Fuse を選んだ理由を次のように語っている。「内製化を前提にした場合、基幹側との様々な連携形式がパターン化され、豊富なコネクターが用意されている Fuse が最適でした。あまり慣れていないメンバーでも正しいコネクターを選べばテストまで簡単に行えます。コストの最適化を考えた時に、スケールアウト型の分散処理が可能なところも大きな魅力でした」

さらに、MI_BPF への本格的な実装に向けてトライアル中の製品が、ビジネスルール管理の「Red Hat Decision Manager」である。DX サービスではビジネス側のニーズの変化が大きくなる。顧客へのサービス提示の要件や制約は状況によって幾通りもバリエーションが発生し、そうしたビジネスルールをタイミングよくサービスに組み込めなければ顧客を逃してしまうことにつながる。「Red Hat Decision Manager」のルールエンジンを使うと、アイデアさえあれば誰でもビジネスルールを定義できる。これにより、「顧客に近いビジネス部門がルールを作り、システム部門はルールを動かす仕組みを作るだけでいいという、理想的なアジャイル開発環境」(鈴木氏) を目指す。

今回の MI_BPF 構築において、三越伊勢丹は Red Hat コンサルティングとも緊密に連携し、技術支援を受けている。株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ ICT プラットフォーム部ビジネスプラットフォーム第 1 担当の吉田理見氏は、「内製化の取り組みにおいて大変手厚く有意義なサポートをいただいています。開発中の実際のコードに対する具体的で的確なアドバイスなど、メンバーのスキルアップに直接的に役立っています」と評価した。

アジャイル体制の確立によって開発生産性と運用管理レベルが大幅に向上

開発スピードが 4 倍にアップ

MI_BPF で商品価格、在庫、顧客情報 (決済や配送など) に容易にアクセスできるようになり、新しい機能やサービスの開発スピードが 4 倍にまで向上した。 

例えば、3D 計測機で測った顧客の足型データと靴の木型データをマッチングさせて靴のレコメンドとフィッティングを行う「YourFIT365」というサービスは、開始から約 2 年で利用者数が 15,000 人を超えている。また、チャットやビデオ通話機能を通じて店員が店頭の商品を販売するオンライン完結型接客サービス「三越伊勢丹リモートショッピング」もスタートした。 

三越伊勢丹グループの IT ソリューションを担う株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ ICT プラットフォーム部ビジネスプラットフォーム第 1 担当長の宮川敬氏は、開発スピードの大幅アップによる生産性向上の効果について、「システム部門とビジネス部門の連携がシームレスになり、ビジネスニーズに合致した DX サービスのタイムリーな展開と状況の変化に応じた柔軟な改善・拡充が可能になりました」と説明している。

保守費を 4 分の 1 に抑制

サービスごとに個別に行っていたデータ連携が共通化され、API 管理が効率化されたおかげで、社内の他部門への確認や問い合わせといった非生産的な仕事が大幅に減少するなど、同じ人数の体制で運用管理レベルを数段上げられたという。従来は、表計算ソフトで作成した API のリストを頼りに、メンバーによる個別の社内ヒアリングで API の利用ステータスを確認していたが、3scale の活用により API 管理は自動化され、ポータル画面で API のリストとステータスがリアルタイムに正しく把握できるようになる。

これにより、全体として保守費を 4 分の 1 に抑制することに成功した。宮川氏は、「今後、DX サービスがどんどん増えて開発規模が膨れ上がってくるのは目に見えており、そうなると、トータルコストがより一層下がってくることは間違いないと思います」と語り、さらに大きなコスト効果が期待できるという見解を示した。

業種

流通

本社

東京

規模

従業員数:約 20,000 人、店舗数:50 店舗

ソフトウェアとサービス

Red Hat® Integration、Red Hat Fuse、Red Hat 3scale API Management、Red Hat Decision Manager、Red Hat コンサルティング

Icon-Red_Hat-Media_and_documents-Quotemark_Open-B-Red-RGB 「内製化を前提にした場合、基幹システムとの様々な連携形式がパターン化され、豊富なコネクターが用意されている Red Hat Integration の Fuse が最適でした。あまり慣れていないメンバーでも正しいコネクターを選べばテストまで簡単に行えます。コストの最適化を考えた時に、スケールアウト型の分散処理が可能なところも大きな魅力でした」

鈴木 雄介

取締役, 株式会社 IM Digital Lab

Icon-Red_Hat-Media_and_documents-Quotemark_Open-B-Red-RGB 「システム部門とビジネス部門の連携がシームレスになり、ビジネスニーズに合致した DX サービスのタイムリーな展開と状況の変化に応じた柔軟な改善・拡充が可能になりました」

宮川 敬

ICT プラットフォーム部ビジネスプラットフォーム第 1 担当長, 株式会社三越伊勢丹システム・ソリューションズ

ビジネスルール管理を最適化

三越伊勢丹は「Red Hat Decision Manager」のトライアル中にモジュール式のビジネスルールリポジトリを構築したが、これにより技術部以外の部門がルールを作成できるようになり、顧客が使いやすい安定したサービスの提供に役立っている。また、組み込み API により構成とビジネスルール管理 (BRM) が単純化され、変化するビジネス要求や市場の情勢に合わせてルールを調整できるようになった。

三越伊勢丹は新しいルールエンジンを使ってロジックの変換やテストの自動化を行っており、プロダクション環境における Decision Manager の使用が拡大すれば効果も大きくなっていくことが期待されている。

モダナイズの取り組みを新たな基幹システムへと拡大

三越伊勢丹は顧客管理、決済、受発注、出荷、配送などの基幹システムをクラウドネイティブ・プラットフォームに転換し、将来的な MI_BPF の拡充に備えることを計画している。

鈴木氏は「Red Hat には、三越伊勢丹の DX を支えるパートナーとして長いスパンでお付き合いいただきたいと思っています」と語り、今後のサポートに期待を寄せた。

三越伊勢丹ホールディングスについて

三越伊勢丹グループの経営を統括するホールディングカンパニーです。三越伊勢丹グループは、百貨店業を中心にクレジット・金融・友の会業、不動産業、その他の事業セグメントで構成されています。百貨店業は売上高の約 8 割を占め、国内百貨店は北海道から九州まで 20 店舗、海外店は中国・東南アジアを中心に 30 店舗を展開しています。

Red Hat Innovators in the Open について

イノベーションがオープンソースの核心です。Red Hat のお客様は、オープンソース・テクノロジーを使用して、自社の組織だけでなく業界や市場全体も変化させています。Red Hat Innovators in the Open では、極めて困難なビジネス課題をエンタープライズ向けオープンソース・ソリューションで解決されたお客様の事例を紹介しています。貴社の事例も掲載してみませんか?